大判例

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仙台高等裁判所 昭和60年(ラ)81号 決定

抗告人

丸紅株式会社

右代表者代表取締役

龍野富雄

右代理人弁護士

藏持和郎

相手方

株式会社篠崎商会

右代表者代表取締役

篠崎信一

第三債務者

勝村建設株式会社

右代表者代表取締役

勝村幾之助

主文

原決定を取消す。

本件を仙台地方裁判所に差戻す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告申立書」及び「抗告理由追加書」に記載のとおりである。

二民事執行法一九三条によれば、債権及びその他の財産権を目的とする担保権の実行又は物上代位権の行使は、担保権の存在を証する文書が提出されたときに限り開始されるべきものとされているが、右にいう「担保権の存在を証する文書」は、登記登録を要する財産権を目的とする担保権の実行の場合を除いては、その文書の形式等につき制限はないから、当事者の署名又は捺印のある契約関係文書、又は外観・内容からみて当事者その他の関係人が業務に関し作成したと認めうる文書、その他、報告書等の供述証拠によることなく、書面の形式内容自体から、当事者その他の関係人が真正に作成したと推認しうる文書であつて、担保権の存在することの蓋然性を裏付けうるものであれば足りるものというべきである。

これを本件についてみるに、甲第一号証、同第二号証、同第五号証、原審記録五丁ないし二一丁の各書面は、その文書に顕出された記名印、会社印、文書の外観、内容に照らし、いずれも各文書の作成名義人の意思に基づいて作成された真正な文書と認められるところ、甲第一号証(昭和五六年四月一日付、抗告人と相手方との間の覚書)によれば、抗告人と相手方は昭和五六年四月一日ころ鋼材等の継続的取引契約を締結し、その取引に関し、個々の鋼材等の売買契約の成立時期は、一方からの契約の申込に対して相手方が承諾したときとし、契約の成立を確認するため、抗告人は毎月末に当月中の契約成立分を一括記載した「売約又は買約確認書」を作成して相手方に送付し、相手方はこれに捺印して一通を抗告人に返却するものとする旨、右覚書の有効期間は一年間とするが、有効期限の一か月前までに双方から異議の申入れがないときは同一の条件で更に一か年間自動更新されるものとし、爾後もこの例による旨を合意したことが認められる。また、甲第二号証(昭和六〇年八月度分の売主・抗告人から買主・相手方宛の売約確認証)、甲第五号証(右と同内容の買約確認証。原審記録五丁、六丁と同一のもの)によれば、抗告人は昭和六〇年八月末日ころ相手方に対し、青森県土地改良会館建設工事用資材として、丸鋼合計三七四・七二トン、代金合計二〇七九万六二八二円を売渡す旨約したとして、その旨を記載した確認書を送付したところ、相手方は、裏面に「買主につき破産、和議があつたときは、買主は代金支払いにつき期限の利益を失う」等の記載があり、表面に「裏面の条件をもつて下記物品買約致しましたので、この買約の確認証として本証を差出します。」との記載のある買約確認証に相手方の社印を押捺して抗告人に返送し、同書面は同年九月一〇日抗告人東北支店に到達したことが認められる。次に、東京鉄鋼株式会社から東洋基礎工業株式会社宛の受領書二通(原審記録八丁、九丁)、有限会社神鉄筋工業宛の受領書七通(原審記録一〇丁ないし一六丁)によれば、東京鉄鋼株式会社は、工事名・青森県土地改良会館、取扱商社・抗告人、特約店・相手方、需要者・第三債務者とする取引分として、昭和六〇年八月二日、右工事施工者である東洋基礎工業株式会社に対し、別紙「担保権・被担保債権・請求債権目録」記載の八月二日付納入分の丸鋼を引渡し、同年八月二〇日から同月二二日までの間、同じく右工事施工者である有限会社神鉄筋工業に対し、右目録記載の八月二〇日ないし同月二二日納入分の丸鋼を引渡したことが認められる。次に、抗告人から相手方宛の請求書四通(原審記録一七丁から二〇丁まで)によれば、抗告人は昭和六〇年八月二八日から同月三〇日にかけて相手方に対し、本件物品の代金として本件請求債権と同類の支払いを請求したことが認められる。更に、第三債務者から抗告人宛の確認書(原審記録二一丁)によれば、第三債務者は抗告人に対し、右「担保権・被担保債権・請求債権目録」記載の物品について、右物品は抗告人が相手方に売渡し、第三債務者が相手方から買受けたもので、第三債務者の相手方に対する買掛金は二〇八〇万円であることを確認する旨を記載した書面を差入れていることが認められる。

右確定事実によれば、抗告人は昭和六〇年八月二日から同月二二日までの間に相手方に対し、別紙「担保権・被担保債権・請求債権目録」記載の物品を代金合計二〇六一万五八二九円で売渡し、相手方はこれを同日ころ第三債務者に対し代金合計二〇八〇万円で売渡したものと認められる。そして、一件記録によれば、相手方の抗告人に対する右代金債務の履行期は既に到来していることが認められるから、結局、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使としてなされた抗告人の本件債権差押命令申請は全部理由がある。

したがつて、右と結論を異にする原決定を取消し、本件を原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官田中恒朗 裁判官伊藤豊治 裁判官富塚圭介)

〔抗告の趣旨〕

原決定を取消し債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差押えるとの裁判を求める。

〔抗告の理由〕

一、原決定の理由は要するにイ民事執行法第一八一条一項にいう債務名義に準ずる程度に被担保債権の存在を証明する文書の提出がないこと、ロ抗告人が提出した文書は何れも債権者或いは第三債務者が作成したもので、債務名義に準ずる程度に本件売買の証明があつたとはいえないこと、ハ受領書・報告書によれば本件物件は申請外会社から債権者、債務者、第三債務者を経由することなく、別な申請外会社に直送されていること、等からみて、債権者と債務者との間に直接本件売買があつたとの証明がないということにつきる。

しかし、以下の点において原決定は判断の誤りがあり、又判例違反でもあるので、取消されるべきである。

1、原決定は抗告人提出の書類の見方を誤つている。確かに一見すれば債務者の記載した部分がないかの如くみられないこともないが、買約確認証の作成の仕方、特に印紙に債務者の印鑑が押印されていることを全く無視している。右押印は如何なる目的で押印されたかを考えるに、即ち債務者が買約を確認した法律行為、つまり買約の意思が表示されている文書そのものである。この点を見落として債務者作成の部分が見当たらないが如く判断するのは失当である。(尚、この点は、代理人が裁判官に説明もしている。)

2、更に右買約確認証右上欄に、丸紅返送用とあるのをどのように解釈したのか。これは正に債務者が買受けの約束の意思表示をして、丸紅に返送した証左に外ならない。

3、又買約確認証は売約確認証(控)と売約確認証と買約確認証との三枚一組になつている。その内売約確認証は抗告人が控として所持している。そして売約確認証と買約確認証が相手方に送付され、その内買約確認証が抗告人に返送されてくる。そして相手方篠崎商会の割印が押されて返送されてくるのをどのように見るのか。これらは一体として篠崎商会の買受けの意思・更に丸紅返送用と書いてある部分とあいまつて、篠崎商会の買受の意思表示がそしてそれが丸紅に返送されたことが表示されているに外ならない。

従つて、正に抗告人提出の書類は本件売買契約が丸紅と篠崎商会間に存在したこと、従つて担保権の存在を証明する文書が存在すること、そしてその存在が抗告人や債務者によつて作成されたことに外ならない。

以上の通り原決定は全く誤つているので取消しの上、債務者が第三債務者に対して有する差押債権目録記載の債権の差押を求める。

被差押債権目録

金20,615,829円

但し、債務者が債権者から購入して第三債務者に売渡し、

納入した下記商品の売買代金債権金20,800,000円のうち頭

書記載の債権額。

東京鉄鋼株式会社製異形丸鋼

出荷日

規格サイズ

数量(t)

差押金額

60.8.2

SD30 D13ミリ

11,261

620,481円

SD35 D22ミリ

32,221

1,775,377円

60.8.20

SD30 D10ミリ

67,957

3,880,345円

SD35 D19ミリ

13,558

747,046円

〃 D22ミリ

7,597

418,595円

60.8.21

SD30 D13ミリ

80,422

4,439,294円

SD35 D25ミリ

101,002

5,565,210円

60.8.22

SD30 D13ミリ

48,132

2,656,886円

〃 D16ミリ

9,303

512,595円

合計

371,453

20,615,829円

担保権・被担保債権・請求債権目録

1.担保権

下記2記載の売買契約に基づく、動産売買の先取特権

(物上代位)

2.被担保債権および請求債権

金20,615,829円

債権者が昭和60年8月度買約確認証に基づき、債務者

に売却した下記東京鉄鋼株式会社製異形丸鋼の売買代

金債権。

出荷日

規格サイズ

数量(t)

金額

60.8.2

SD30 D13ミリ

11,261

620,481円

SD35 D22ミリ

32,221

1,775,377円

60.8.20

SD30 D10ミリ

67,957

3,880,345円

SD35 D19ミリ

13,558

747,046円

〃 D22ミリ

7,597

418,595円

60.8.21

SD30 D13ミリ

80,422

4,439,294円

SD35 D25ミリ

101,002

5,565,210円

60.8.22

SD30 D13ミリ

48,132

2,656,886円

〃 D16ミリ

9,303

512,595円

合計

371,453

20,615,829円

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